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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)239号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがなく、本願発明の要旨にいうスポーク部とは平坦部、平坦部上の突条、外周部、中央部を指すものであることについても当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない甲第三号証(本願の明細書全文を補正した昭和六二年五月八日付手続補正書)によれば、本願発明の目的、構成、効果について請求の原因四1の事実を認めることができる。

三 第一引用例に審決の理由の要点2(一)摘示に係る事項の記載があることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によれば、第一引用例のホイールキヤツプは、その外周縁を越えタイヤ側壁の一部に延在するリング状の装飾部を備え、右装飾部を適宜色分けし、例えば別紙図面(二)第3図のように、内側を彩色部、外側を白色部とすれば、車輪上に白色側壁のタイヤが装架され、車輪上にホイールキヤツプが装架されている外観を呈することにより、タイヤ、ホイールキヤツプを含む車輪全体の意匠的効果の向上を目的としたものであることが認められる。

四 取消事由に対する判断

1 第一引用例記載の発明も本願発明もその用途の点は別として、ともにホイールキヤツプに係る発明であり、前者の中心カバー部、外周部、中間部、中央部が後者のホイールキヤツプ本体、外周部、平坦部、中央部に対応し、両者がホイールの外周縁とほぼ同じ直径を有する外周部と、それらの間の平坦部(中間部)とを合成樹脂で一体になした円板状のホイールキヤツプ本体を備え、平坦部外表面には中央部から外周部方向に延在する複数本の突条を軸線方向外側に突出するように一体成形し、更に全外表面に装飾のための表面処理(クロムメツキ)をしたホイールキヤツプである点で一致すること、両発明が審決の理由の要点3に摘示された三点において構成上の相違があることは当事者間に争いがない。

2 取消事由(1)について

(一) 原告は、審決が両発明のホイールキヤツプとも自動車に用いられる点で一致するとした認定判断を争い、第一引用例のホイールキヤツプは主として滑走路上を直進する飛行機に用いることを予定し、高速でカーブを走行する普通の自動車に用いることは予定していない旨主張する。原告の右主張は、第一引用例のホイールキヤツプが外周縁を越え外側に延在しタイヤの側壁の一部を覆う装飾部を備えており、かかるホイールキヤツプを自動車に用いれば、高速でカーブを走行する際、タイヤ側壁の膨出変形によりホイールキヤツプが脱落するおそれがあることを理由とするものである。しかし、本願発明は、かようなタイヤ側壁を覆つて装飾する装飾部を備えない、ホイール自体を装飾するホイールキヤツプ本体に係る発明であり、これを第一引用例記載の発明に即していえば、外周縁で囲まれている中心カバー部に係る発明であるから、本願発明の進歩性を検討するに当たり、同引用例のホイールキヤツプから装飾部を除いた中心カバー部のみを比較の対象とすることは少しも差支えないものというべきである。したがつて、両者を対比するに当たり、両者ともホイールに取付けるホイールキヤツプに関する発明である以上その具体的用途の同一性を問う必要はない。

(二) 審決は第一引用例のホイールキヤツプも自動車に用いることができる旨認定判断しているので、その当否について付加的に検討する。前掲甲第四号証によれば、第一引用例には「組立体が飛行機用の時は、ハブキヤツプ16を取付ける好適な方法は、ボス15内の孔にボルト17をねじ込むことである。別の取付方法は、車輪上にハブキヤツプを装架することと共同させるクリツプ又はバネによる通常の方法である。」との記載があることが認められるところ(二頁左上欄六行ないし一一行)、右記載中の「飛行機用の時は」との文言からみて、第一引用例は、飛行機以外のホイールにもその発明に係るホイールキヤツプを用いることを予定していることが明白に看取され、前掲甲第四号証によれば、第一引用例記載の発明がタイヤを備えたホイールについてのホイールキヤツプに関するものであることが認められる以上、同引用例のホイールキヤツプの用途としては飛行機用のほか差当り自動車用以外には考えられないところである。そして、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、「一般にしばしばフエアリング(fairing)と呼ばれるハブキヤツプの装飾部19はタイヤ側壁のほぼ中心よりもつと下へは延びていない。もしフエアリングがビート面から踏面への中間よりももつと延びていると、タイヤは使用するとすぐ破損し…」との記載(二頁右上欄五行ないし一〇行)及び「ハブキヤツプ16は比較的弾性係数の低い…プラスチツク材料のどれかで作られる。弾性材料が低いということは…タイヤを切つたり減らしたりしない材料を意味している。」との記載(二頁左下欄四行ないし一一行)があることが認められ、右記載によれば、第一引用例記載の発明において、ホイールキヤツプの装飾部がタイヤ側壁の一部を覆うことにより生ずるおそれのあるタイヤの破損や原告が主張するホイールキヤツプ脱落については、タイヤと装飾部の位置関係及びホイールキヤツプの材質等を配慮すれば、回避し得るものであることが認められ、かかる事項は、ホイールキヤツプの製造に当たり、当業者が技術的見地から検討される当然の設計的事項にすぎないものというべきである。

(三) 以上述べたところによれば、審決の一致点に対する認定判断に誤りはなく、取消事由(1)に関する原告の主張は理由がない。

3 取消事由(2)について

右取消事由は第一引用例記載の発明と本願発明との相違点<1>に対する審決の認定判断を争うものであるが、本願発明がホイール自体を装飾するホイールキヤツプ本体に係る発明である以上、その進歩性を判断するに当つて、第一引用例のホイールキヤツプの中心カバー部と対比検討すれば足りることは既に述べたとおりである。右相違点<1>に対する審決の認定判断に誤りはなく、取消事由(2)に関する原告主張は理由がない。

4 取消事由(3)について

右取消事由は、第一引用例記載の発明と本願発明との相違点<2>に対する審決の認定判断を争うものであるので、検討する。

(一) 審決の理由の要点2(二)に摘示された第二引用例記載の発明の内容、同4(二)(1)に摘示された同発明と本願発明の対比に関する事項は当事者間に争いがなく、前記のように、第一引用例には、ホイールキヤツプをホイールに取付ける通常の方法として、クリツプ又はバネによる方法が示されているから、同引用例の中心カバー部の外周部裏面の軸線方向内側にホイールキヤツプの取付手段として、第二引用例に記載された突出するホイールキヤツプ取付用のクリツプ受部に相当する突出部を一体形成し、前記相違点<2>の構成を着想することに格別の困難はないものというべきである。

(二) 原告は、第一引用例の装飾部を含めたホイールキヤツプをクリツプ又はバネによる通常の方法でホイールに取付けることは不可能である旨主張するが、前記のとおり、本願発明の進歩性の判断に当たつては、第一引用例のホイールキヤツプの中心カバー部について検討すれば足りるのであるから、原告は既にその前提において失当である。のみならず、タイヤは元来弾性体であり、また、前記のように、第一引用例のホイールキヤツプにおいては、装飾部は比較的弾性係数の低いプラスチツク材料で作られ、かつその延在する範囲は限定されていて、必要に応じ適宜その範囲を設定できるものであるから(現に別紙図面(二)第3図によれば、装飾部はリムフランジの外周縁をわずかに越えて延びているにすぎないことが認められる。)、ドライバー等をホイール外周縁に押込み取付け、取外しの作業をすることは可能であり、それなればこそ、第一引用例においても、前記のように、クリツプ又はバネによる通常の方法によるホイールキヤツプの取付けについて記載しているものと認めることができる。そうであれば、仮に、装飾部を備えたままの第一引用例のホイールキヤツプの外周部裏面に突出した第二引用例のクリツプ受部を設けたとしても、これがホイールキヤツプ取付手段として利用することが不可能であるとまでいうことはできない。

(三) 以上によれば、相違点<2>に対する審決の認定判断に誤りはなく、取消事由(3)に関する原告の主張は理由がない。

5 取消事由(4)について

右取消事由は第一引用例記載の発明と本願発明との相違点<3>に対する審決の認定判断を争うものであるので、検討する。

(一) 当事者間に争いのない相違点<3>に関する審決の理由の要点3及び4(三)(1)の事実と前掲甲第三、第四号証によれば、第一引用例記載の発明及び本願発明におけるホイールキヤツプの平坦部(中間部)外表面上の突条の形状をみるに、両者とも、ホイールキヤツプ本体(中央カバー部)の平坦部外表面に軸線方向外側に突出するように一体成形され、中央部から外周部方向に延在する突条を有するが、本願発明では、右突条が半径方向に対して傾斜して延在し、該平坦部上で互にクロスするように設けられているのに対し、第一引用例記載の発明では、右突条が単に半径方向に放射状に延圧し、互にクロスしていない点で相違していること、本願発明では、ホイールキヤツプ本体のスポーク部(平坦部、平坦部上の突条、外周部、中央部)に金属光沢を有するクロムメツキ等の金属メツキを施した後に平坦部の突条を除く表面を暗色に施し、突条の表面を平坦部より浮き出す色調とする構成であるのに対し、第一引用例記載の発明では、ホイールキヤツプ本体(中心カバー部)は適宜塗装、又はクロムメツキを施して装飾する構成にとどまり、その結果、本願発明ではホイールキヤツプの外表面に二輪車におけるような(ワイヤー)スポーク車輪、すなわち複数本のスポークが半径方向に傾斜して互いにクロスするように浮き出されて配列されているように見せかけた意匠的効果を奏するのに、第一引用例記載の発明ではそのような意匠的効果を奏しないことが認められる。

しかして、成立に争いのない甲第六号証(昭和五二年一一月二日付日刊自動車新聞)によれば、合成樹脂のホイールキヤツプとして二輪車におけるような(ワイヤー)スポーク車輪にみせかけたものが周知であること、右の周知の合成樹脂のホイールキヤツプは、具体的には、外周部と中央部の間、すなわち中間部を平坦部とすることなく空間のままとし、ここに外周部から中央部にかけて複数本のスポークを半径方向に互いにクロスするように配列し、あたかも二輪車におけるような(ワイヤー)スポーク車輪にみせかけた構成態様のものであると認められる。そして、第一引用例の装飾部を除くホイールキヤツプ、すなわち外周部と中央部の間の中間部が平坦部であつて、その外表面に軸線方向外側に突出するように一体形成され、半径方向に放射状に延在している突条を有し、中心カバー部が適宜塗装、又はクロムメツキして装飾されているホイールキヤツプにおいて、右の半径方向に放射状に延在している突条に代えて、周知例にみられる外周部と中央部の間の空間にクロスするスポーク状の突条を採択すれば、前記相違点<3>の本願発明の構成のうち「ホイールキヤツプ本体の平坦部の外表面にほぼ中央部から外周部方向に半径方向に対して傾斜して延在する複数本の突条を平坦部の上で互いにクロスさせるとともに該平坦部の外表面から軸線方向外側に突出するように一体成形し、前記ホイールキヤツプ本体のスポーク部に金属光沢を有するクロムメツキ等の金属メツキを施した」構成が得られるものと認められる。次に、相違点<3>の残余の本願発明の構成、すなわち「平坦部の突条を除く表面を暗色にし、突条の表面を平坦部より浮き出す色調にする」構成についても、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によつて認められる「ある部分を他の部分から浮き上つたように見せかけるためにその背景となる他の部分を暗色に施すという常套手段」を適用することによつて得られるものと認めることができる。しかして、ホイールキヤツプがホイールの装飾のためのものであることは当事者間に争いがなく、かかるホイールキヤツプに関わる当業者が第一引用例及び前記周知例に接すれば、ホイールキヤツプの装飾上の効果を上げるため、適宜塗装又はクロムメツキされている第一引用例のホイールキヤツプの中心カバー部の平坦部に一体成形された突条に代えて、前記周知例にみられるクロスするスポーク状の突条を採択し、かつ前記常套手段により突条の表面を浮き出す色調とすることに気付き、前記相違点<3>の本願発明の構成を想到することに格別の困難があると認めることはできない。

(二) 原告は、本願発明が相違点<3>の構成を採択したことにより請求の原因四1の<1>ないし<4>の顕著な機械的強度向上という技術的効果を奏する旨主張するので、以下に検討する。

まず、ハニカム構造が機械的強度を向上されるものとして周知であることは当事者間に争いがなく、本願発明のホイールキヤツプの平坦部と一体成形された突条がハニカム構造であるか否かは別として、右突条がクロスして設けられていることからして、少なくともハニカム構造に類似する構造であり、右周知事実からみて、平坦部の補強に役立つものであることは明らかである。したがつて、第一引用例のホイールキヤツプにおいて、平坦部に半径方向に放射状に一体成形された突条に代えて、クロスするスポーク状の突条を採択すれば、前記のように右の採択に格別な困難性が認められない以上、そのハニカム構造類似構造により平坦部の機械的強度が向上すること、すなわち<2>の効果は当然の効果として当業者が予測することが可能な範囲内にあるものというべきである。

次に、第一引用例記載の発明も「その平坦部外表面には、中央部から外周部方向に延在する複数本の突条を軸線方向外側に突出するように一体成形し、更に全外表面に装飾のための表面処理(クロムメツキ)を施した」ものである点で本願発明と一致することは既に述べたとおりであり、特に前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、ホイールキヤツプの中心カバー部をクロムメツキすることが記載されている(三頁左上欄一九行ないし右上欄二行)。したがつて、第一引用例記載の発明においても金属メツキ(クロムメツキ)がホイールキヤツプ本体(中心カバー部)に強固に密着するので、本体の強度は向上し、洗車ブラシ等で苛酷に洗車されても、突条は損傷されないという効果、すなわち前記<1>、<3>の効果を奏するものということができる。

更に、第一引用例記載の発明においても、突条より凹んだ位置にある平坦部は、外力の影響を受けることは少ないから、ここに暗色の色彩を施せば(この点の構成の容易性は既に述べたとおりである。)、その色彩が剥がれたりすることがないこと、すなわち<4>の効果は当然予測し得るところである。

なお、付言するに、本願発明のホイールキヤツプにおいて、ホイール取付手段として本体裏側に突出部を設ける構成を想到することも第二引用例記載の発明から容易であることは既に述べたとおりであるから、外周部近傍の機械的強度の向上がみられることも、予測し得るところである。

以上のように、原告が主張する本願発明の効果は、いずれも、予測の範囲であるか又は第一引用例記載の発明においても奏せられるものであるから、顕著なものとはいえない。

(三) しかして、審決は意匠的見地から相違点<3>の本願発明の構成の容易性を促え、効果の点について判断をしていないが、右のように相違点<3>の構成によりもたらされる効果も顕著なものと認められない以上、相違点<3>に対する審決の認定判断は結論において正当であり、取消事由(4)に関する原告の主張は理由がない。

五 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取消すべき違法の点を認めることができないので、審決の違法を理由に取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

自動車のホイールに取り付けられるホイールキヤツプであつて、前記ホイールの外周縁とほぼ同じ直径を有するリング状の外周部と、環状の中央部と、中央部と外周部との間の板状の平坦部及び外周部の裏面から軸線方向内側に突出する突出部とを合成樹脂で一体になした円板状のホイールキヤツプ本体の平坦部の外表面にほぼ中央部から外周部方向に半径方向に対して傾斜して延在する複数本の突条を平坦部の上で互いにクロスさせるとともに該平坦部の外表面から軸線方向外側に突出するように一体成形し、前記ホイールキヤツプ本体のスポーク部に金属光沢を有するクロムメツキ等の金属メツキを施した後に平坦部の突条を除く表面を暗色に施し、突条の表面を平坦部より浮き出す色調にし、外周部の裏面から内側に突出する突出部を介してホイールに取付け可能としたことを特徴とする自動車用ホイールキヤツプ

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